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東京高等裁判所 昭和52年(ラ)1124号 決定

抗告人

飯田博

右抗告代理人

楠元一郎

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告人の本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。」との裁判を求める、というにあり、その理由は別紙「抗告の理由」と題する書面記載のとおりである。

(当裁判所の判断)

抗告人は、まず、抗告人を原告、申立外小川富貴子を被告とする東京地方裁判所昭和五一年(ワ)第一一、一二三号建物収去土地明渡請求事件の和解期日において担当裁判官に感情にはしる言動があつたとして、同裁判官が感情的であり、不公平な裁判をするおそれがある旨主張する。

もとより裁判官が感情にはしり、或いは感情の赴くままに担当事件の審理判断をなすが如きことは厳に戒しむべきことはいうまでもないところであるが、裁判官が当該事件の審理等を通じて得た心証を、口頭弁論期日、和解期日等において当事者に示唆し、挙証活動を促がし、或いは事件処理の指針を与える等の手段をとることがあながち非難に値するものということはできず、かえつて当事者間の紛争の実体に即した解決を図るためには許されるものと解するのが相当である。

したがつて、かりに裁判官が、抗告人主張のように和解期日において、抗告人の請求の理由のないことを推認できるような言辞を用いて抗告人に対する和解の勧試を行つたとしても、原審認定のように既に証拠調を経て口頭弁論を終結した後の和解期日であつたことを考え併せれば、担当裁判官としては事件の具体的実情を把握したうえで、その紛争の実体に即した解決を図る目的で自己の心証の一端を抗告人に示唆したにとどまるものというべく、このことをとらえて不公平な裁判をなすおそれがあるものということはできないから、抗告人の右主張は理由がない。

二抗告人はさらに、前記事件担当裁判官の審理が偏つていて不公平な裁判をするおそれがある旨主張する。

しかし、当事者の申出た証拠といえども、裁判所において不必要と認めるものはこれを取調べることを要しないことはいうまでもないところであるから、単に右事件担当裁判官において、抗告人の申出た証拠につき証拠調をしなかつたからといつて、当該裁判官の審理が偏り不公平な裁判をなすおそれがあるものということはできず、一件記録を精査してみても同裁判官に不公平な裁判をなすおそれがある事実は全く認めることができないから、抗告人の右主張も理由がない。

三よつて、抗告人の本件忌避申立を却下した原決定は相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(江尻美雄一 滝田薫 桜井敏雄)

【抗告の理由】 一 ○○裁判官忌避の理由は二ある。一は同裁判官が感情的であるということから不公平な裁判をするおそれがあることを疑わせるということで、他は同裁判官の審理裁判がかたよつていることから、不公平な裁判をすることを疑わせるということである。

二 原決定によれば「和解期日として同年一一月九日(申立書の六日は明白な誤り)を指定したこと、右期日に原告(申立人)及び原告訴訟代理人(申立代理人)と被告代理人が出頭したが和解は調わず、打切になつたことが明かである。」と忌避申立の事実関係を認めている。しかし原決定は「そして担当裁判官が右和解期日において原告及びその訴訟代理人に対し請求棄却の判決を書くと宣言したか否かの確定はしばらく措く」としてこの点についての審理裁判を逃げている。

裁判官が原告双方の主張と立証をきいて、冷静に審理裁判してほしいと願つているのに対し、裁判官が感情をむきだしにして審理を進めるのは納得できないというのが抗告の第一の理由である。

三 原決定は「前記訴訟事件がすでに結審し、判決の言渡を待つばかりの段階であつたことを考えれば、中略 同裁判官につき不公平な裁判をするおそれがあることを疑わせるものとは断じ難い」といつている。

原決定は結審後たとえ正式な和解期日であつても、裁判官はどんな暴言をはいてもよい、判決には影響ない、何を言つてもよいのだ感情むきだしに和解を勧め、和解を打切つても判決に影響はない、忌避の理由には全然ならないというのであろうか、これは申立人の絶対に納得できない処である。

四 第二点は同裁判官の審理がかたよつていて不公平な裁判をするおそれがあることを疑わせるということである。

(一) 本件本訴は休止満了となつた、同裁判所昭和四六年(ワ)第三、三八八号事件で相当審理が進んでいた。従つて申立人である原告代理人は訴訟経済、訴訟促進の見地から、本件口頭弁論期日に右事件の記録を援用すべく取寄申請した処同裁判官は必要ないといつてこれを許さなかつた。申立人代理人は同裁判官が軽率で早とちりしたものと善意に考え、次回口頭弁論期日再度要請して取寄が許可された。

(二) 必要部分を甲第一号証から甲第一八号証として次回口頭弁論に提出した。被告代理人は甲第一二号証の一、二無断譲渡転貸に基づく解除通知と配達証明を不知と述べたほか全部の成立を認めた。

以上の甲号証は本件土地を占有している事実を証する証拠である。

ところが同裁判官は口頭弁論の席上、右の成立に争のない甲各号証はほとんど必要のないものであると放言した。

(三) 同裁判所昭和四六年(ワ)第三、三八八号事件の最後の担当のB裁判官、その前担当のA裁判官は何れも和解を勧告し、和解期日に被告が占有していることについては争がない、ただプレハブ建物が現在のままでは被告のものとして認めることはむつかしいのではないかと再三いわれていた。

(四) 同裁判官は昭和四六年(ワ)第三三八八号事件の記録の取寄を認めたがらず、取寄せの上甲号証として提出後も必要ないといつて放言している。見ようとしないのではないか。

(五) 昭和五二年一〇月二四日の口頭弁論において、同裁判官は突然終結すると言うので申立代理人(原告代理人)は準備書面を提出したいから近いところで一回続行してほしいと要請したに拘わらず、同裁判官は必要ないといつて終結したものである。

以上のように同裁判官の審理はかたより不公平な裁判をするおそれがあることを疑わせるに充分な理由があるものと思料する。

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